小出裕章ジャーナル

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SPEEDIについて「計算で得たことも米軍には渡したけれども住民には知らせないという事に打って出てきたわけで、やはり彼らとしては都合の悪い物はできる限り使わないし、自分達がフリーハンドでいたいと思ってるのだと思います」~第94回小出裕章ジャーナル



ラジオ放送日 2014年10月24日〜31日
Web公開 10月25日
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景山佳代子:
原発など重大事故が起きた際に、放射性物質の広がりを予測するSPEEDI(スピーディ)について伺っていこうと思います。SPEEDIと言うと、福島の原発事故で住民避難に活用されなかったことが非常に問題になっていましたよね。

今回、8月25日に原子力規制委員会が、そのSPEEDIについての予算を大幅削減するということを決定し、10月8日にはこのSPEEDIは原発事故の避難判断には使わないという方針が出されたというふうに報道されてたんですが、まずSPEEDIというのは原発の事故前までは住民避難の指標とされていたんですよね。

小出さん
そうです。

景山:
これが参考情報というかたちで格下げされた後、じゃあ自治体というのは一体SPEEDIに代わる、何によって避難計画というのを判断したらいんですか?

小出さん
原子力規制委員会の方は実測値を重視してやるという立場なのだと思います。

景山:
実測値というのは予想ではないということですね?

小出さん
そうです。ただし、実測値自身が福島の事故の時もそうでしたけれど、ほとんど得られないのです。例えば福島の事故の場合には、原子力発電所の近くに国の検査官が常駐しているオフサイトセンターというのがあって、例えばそこにも放射線量を測る機械が設置してあったのですけれども、オフサイトセンターにいた国の職員は事故が起きたことを知ってみんな逃げちゃった。住民に警告を発する前にもうすでに自分達だけが逃げちゃった。

景山:
この実測を測る人達が、ってことですか?

小出さん
そうです。ですから、要するに放射線の測定器を実際に測る機械自身が役に立たなかったわけですし、そういう実際の機械というのはごくまばらにしか配置されていませんので、そんな情報で住民を避難させるということは基本的にはできないと私は思います。

だからこそ、実測値では足りないので計算をして、時時刻刻どちらの方に放射性物質が流れて行ってるかを知りながら、住民を避難させるということだったのです。

1979年に米国のスリーマイル島という所で事故が起きたのですが、それ以降、世界中の国々がなんとかその事故の時の放射能の雲の拡散というか、流れていく方向をキチッと予測しなければいけないということで、日本もそれに取り組んでSPEEDIという計算コードを作り上げたのです。確か130億円ぐらいはそのために使ったと思います。

それが実際に福島第一原子力発電所の事故の時に、必ずしも期待通りには動かなかったのですが、ある程度、彼らが計算で得たことも彼らは米軍には渡したけれども、住民には知らせないということに打って出てきたわけで、やはり彼らとしては都合の悪い物はできる限り使わないし、自分達がフリーハンドでいたいと思ってるのだと思います。

景山:
こちら、もしSPEEDIの方の予算を大幅に削減し、参考情報にしていくという風に切り替えるんであれば、事故が起きた場合の防災、あるいは減災のためにはどんな他に方法とか手段があり得るんですか?

小出さん
本当であれば、その実測値と計算値を組み合わせて対処しなければいけないはずだと思います。今聞いて頂いたように、実測値そのものもかなりまばらな情報しか得られませんので、やはりSPEEDIというものが必要だと思った原点に戻って、実測値とSPEEDIのような計算値とを合わせて、できる限り住民にそれを知らせながら避難をさせるということが私は必要だと思います。

小出裕章ジャーナル

景山:
これ全くの素人質問になって申し訳ないんですが、その予想というのは、こちらに放射性物質が来るだろうということをまさに予測して、そちらに行かないようにとか、避難経路としてはそちらを選択しないように、というそういう情報が得られると思うんですけど、実測ということはもうすでにそこに放射性物質は到達してるということですよね?

小出さん
はい。

景山:
それが到達しましたよと言われてから逃げるという、こういう手順になっちゃうんでしょうか?

小出さん
そういう手順になってしまうわけですね。それでは困るわけですから、実測値と計算値を組み合わせながら住民が被ばくをする前に避難の計画を立てて逃がすということをやるべきだということでSPEEDIを開発されたのです。それを全く使わないということは歴史を逆に戻すようにすることを彼らはやろうとしているわけで、キチッと考え直すべきだと思います。

景山:
ちなみに、例えば先ほどスリーマイル島事故というのがひとつ大きなきっかけにあったとおっしゃってたんですけど、それ以外の地域、例えばヨーロッパとかアメリカとかでもSPEEDIのような予測システムというのは開発されているんでしょうか?

小出さん
はい、世界各国で開発しています。放射能がどちらの方向に動いているというようなことは、福島の事故の時も日本政府はSPEEDIの情報を隠してしまったわけですけれども、ヨーロッパのドイツであるとかフランスであるとか、そういうところがむしろあっちに放射能が流れていったというような情報をしきりに公表してくれました。

景山:
日本としては今後はほんとにSPEEDIをそういうふうになくすという…「代替案はどうするんですか?」というのがとても気になるです。そういう方法とか、「現在、実はSPEEDIに代わる予測システムとしてこれを導入しようとしてるんです」とかいうのはあるんですか?

小出さん
ありません。

景山:
ないんですか?

小出さん
はい。大気拡散という現象自身は普遍的というか、風がどっちに流れたらどっちの方向に、どのスピードで流れていくというようなことは、普遍的な知識というか、誰がやっても計算できるわけですし、ただしキチッとした計算値を出そうと思うと、それなりの時間も研究の積み上げもあるし、お金もかかるということで、SPEEDIにしても20年以上の歳月をかけてようやくにしてできてきたものなんですね。

先ほども聞いて頂いたように、130億円というような膨大なお金も注ぎ込みながらようやくにして作り上げたわけで、それを捨ててしまうと言うなら、じゃあ今までそれにお金を投げた人達は一体どういう責任を取るのかというのを問わなければいけないと思います。

そして、他にももちろん個々の研究者が作っている計算コードであるとか、なにがしかのその民間の団体が持っている計算コードもありますので、そういうものをほんとにまた事故が起こってしまえば使わざるを得なくなると思いますが、やはりこれは国家としての問題ですので、これまでお金をかけてきたSPEEDIを使わないというのであれば、じゃあどうするかというのは、むしろ国家の側、原子力規制委員会なり安全保安院の方からキチッと意見を表明しなければいけないと思います。

景山:
そうですよね。本当に逃げるという立場から考えた時に、ちゃんとした情報がもらえないで逃げるということほど不安なことはないしという。ひとつの指標にしか過ぎなかったSPEEDIさえなくなってしまったら自治体はどうしたらいいのかとか、本当にこの問題は大きいですよね。

小出さん
はい、と思います。原子力規制委員会というのが新しい規制基準というのを作りまして、原子力発電所の機械そのものが新しい規制基準に合致してるかどうかということは規制委員会が判断をして、例えば九州電力の川内原子力発電所は規制基準には合致していると、この間認めたのです。

ただし、新規制基準というのは、「事故が起こらない」とは言っていないわけで、「起きる可能性はある」とむしろ認めている。「その時の避難計画はそれぞれの自治体で作りなさい」「国の方は知りません」「規制委員会も知りません」と言ってしまってるわけで、そう言われてしまいますと、自治体では対処できるような問題ではありませんので、結局、避難計画そのものもキチッとしたものが作れないということになってしまうと思います。

景山:
はい、小出さん今日はどうもありがとうございました。

小出さん
ありがとうございました。



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