第30回「熱狂なきファシズムの到来? 参院選を振り返る」

2013年08月05日
ゲスト 想田和弘さん(映画監督)
パーソナリティ 湯浅誠(社会活動家)
テーマ 熱狂なきファシズムの到来? 参院選を振り返る
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湯浅誠】テーマは、彼の最新作「選挙2」と、参院選。2011年4月の統一地方選で山内和彦さんの選挙戦を撮った想田さん。彼は、選挙戦の様子や当時の街の何気ない日常風景に形容しがたい違和感を抱きながら、それが何なのか、自分でも理解できずにいたと言う。それが去年の衆院選でわかった気がして、本格的な編集作業にとりかかり、『選挙2』を完成させた。それは一言でいうと「異常事態の中の奇妙な平穏さ」 1000年に一度の地震と大津波、人類史に残る原発事故があり、その影響は日常空間の中に不可避に侵入している。(ベビーカーを押す母親のマスク、スーパーの「節電中です」の張り紙など)しかし人々は、その影響を受けながら、同時に、いつもの時間帯に改札をとおり、いつものように通勤電車に揺られて出勤する。そして選挙も、いつものように駅前の辻立ちがあり、いつものように朝の挨拶をする。その中で、山内和彦さんは、異例づくしの選挙戦を行った。異常事態の中の、いつもどおりの選挙戦と異例づくしの選挙戦。異常なのは、「いつもどおり」なのか「異例づくし」なのか。その境目が揺らぐ感覚。映画冒頭の駅の改札シーンが象徴的。「いつもどおり」の風景の「異様な」長回し。そこから、私たちは境目の揺らぐ記録映画の世界に連れていかれる。 考えさせられる映画だった。
ラジオフォーラム

想田監督(左)、湯浅誠とともに先の参院選を振り返ります‡


■熱狂なきファシズムの到来か? シラけた参院選の背景

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参院選挙戦ではアベノミクスの成果をしきりに強調した安部総理
(写真は首相官邸ホームページより)‰

先月7月の参院選は自民党が大勝。小泉政権下での選挙より議席を獲得した一方、投票率は戦後で3番目の低さ。4935万人が棄権したことになります。

想田さんは「ここから連想するのが、“熱狂なきファシズム”。しらけたムードの中で何となく全体主義的な空気が世の中に広がっているのではないか」と振り返ります。

「自民党の改憲案は明確に民主主義を否定している。マスコミも市民もそれに対し、相当危機意識を持たなければならないのに、そうはならなかった。危険を察知するセンサーが壊れているか、持っていない人が増えているのではないか」。

■経済政策の目眩ましの裏で

また選挙戦で安部総理は、アベノミクスといった経済政策の成果を強調。その点がナチスを想起させると、想田さんは語ります。「1930年代のドイツでは、経済政策で成功したナチスが合法的な選挙で多数を占めたが、一方でユダヤ人排斥を進め、全権委任法(行政府に立法権を委譲した法律。ヒトラー独裁の根拠法となった)が成立し、戦争へ突き進んでいった。経済政策に目を眩まされている間に破滅的へ道に進むのではないか、とどうしても連想してしまう」と懸念を示しました。

■観る人をもっと能動的に – 観察映画の手法

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カネなし、組織なし、看板なし – 完全無所属候補の選挙活動を追う想田監督『選挙2』(画像は『選挙2』公式サイトより)
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想田監督が撮る「観察映画」は演出もBGMもなし。「事前取材も台本もない。とにかく行き当たりばったりで、見たままを撮る」という特異な手法です。

「台本通りで予定調和ではなく、ドキュメンタリーの原点に戻りたい」という想田監督。ナレーションや字幕、BGMで懇切丁寧に説明する演出を離れ、「観る人が能動的になるよう、不親切に作る。観客は自分で情報を取りにいかなければならない。そういう関係を作りたい」と語ります。

■原発事故をなかったことにしたい? 『選挙2』製作秘話

現在公開中の『選挙2』。2011年4月の川崎市議会選挙で、「脱原発」をスローガンにドブ板選挙に挑む完全無所属候補・山内和彦氏の選挙活動を追います。「インパクトはあるが、理解し難い絵が撮れた」という想田さん。

製作過程で見えてきものは、「世界が変わっているのに、社会は変わっていない」姿だと言います。「機械的な日常が営まれている。あの原発事故をなかったことにしたい、忘れたい。私たちは事故直後から無意識にそう思っていたのではないか」。

■汚染水を農業用水に…除染ビジネスの杜撰さの問う – 小出裕章ジャーナル

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除染モデル実証事業での汚染水が流された福島県南相馬市の飯崎川の取水ぜき(画像は47NEWSより)(

7月12日、共同通信の報道で、中堅ゼネコンの日本国土開発が福島県南相馬市の除染モデル実証事業で生じた汚染水340トンを、農業用水に流していたことが発覚。除染事業を発注した独立行政法人「日本原子力研究開発機構」はこの同社の計画書を了承していたといいます。

小出さんは「福島第一原発事故によって大量の放射性物質が漏出し、これまでの法律や基準で管理することができなくなってしまった。排水中の濃度基準も実質守れないという状況になってしまっている」と指摘しました。

除染自体がフィクション、幻想ではないかと問う想田さん。また以前の放送で、除染は汚染を移動させる“移染”にすぎないとしていた小出さん。「放射能を消すことはもともとできない。一番やらなければならないのは、汚染地域の人々を避難させることだ」と訴えました。

■地域コミュニティの再生を – 「静岡2.0」の取り組み

さまざまな市民活動やイベントを紹介する「ラジオのたね」では、静岡を拠点に、助け合える地域社会を作りたいと活動をする学生グループ「静岡2.0」をご紹介しました。

代表の静岡県立大学2年・青野みちのさんは、「東日本大震災で地域や人のつながりが大事だと実感した。人と一緒に笑ったりご飯を食べたりする。そういう単純なことが生きる活力になる」と、活動のきっかけを紹介。

すでに沼津、静岡、焼津、富士、牧之原などで拠点が広がりつつある活動。「地域の防災訓練に参加するだけでなく、近所の人たちとよく話をしてつながりをつくる。そういう場を広げたい」と展望を語りました。


ゲスト略歴
ラジオフォーラム 想田和弘(そうだかずひろ)
1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部、スクール・オブ・ビジュアルアーツを卒業。1993年からニューヨーク在住。テレビドキュメンタリーなど数々の番組制作を手がけたのち、台本やナレーション、BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーを製作に携わる。代表作に『選挙』『精神』『演劇1・2』など。日本の政治状況に対する数々の論考も注目を浴びている。


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